旧 其の四 回憶上海 ~思い出の上海~

もう何十年前になるかの、爺も若いときがあっての、上海は憧れの地だったんじゃよ。
婆さんには内緒じゃが、古いダンスクラブでの、あるハイカラ娘と出会うて恋に落ちてしもうたんじゃ。ある日一緒に食事をして、手をつなぐことものうて肩が触れるほどの足並みでバンド地区を散歩してたんじゃが、それだけのことで公安にたいそう注意されたんじゃよ、そういう時代もあったんじゃ。

まあ、そのどきどき感がまた、若さゆえに燃えてしまうことになるんじゃがの。ハイカラなのに、はにかんだ笑顔が愛らしかったあの娘、今どうしてるもんか・・・マア良い思いでじゃよ。それにしても、ここ10年の上海の変わりようは凄いもんじゃな。今じゃ若い恋人たちが堂々と手をつないで、こともあろうか人前で平気でキスしとるんじゃから。

まあ、そんなんで爺も上海には特別な思いがあっての、年に一回は訪問するんじゃよ。お決まりのコースは豫園に行って、南園で小龍包を食べての、その後、湖心亭でゆっくりお茶するんじゃよ。日本からの観光客には豫園は必ず観光コースに入っとるようなんじゃが、いかんせん時間が無いもんだから中国茶を楽しむことは出来んようでな、残念なことじゃよ。

豫園は今じゃ全国からの観光客訪れる名所じゃが、そのおのぼりさん的な処が結構爺は好きでの。ここから豫園のごったがえす人を窓から見ながら茶を飲んどるとな、何か古き良き時代に舞い戻ったようでな。爺も若き日を色々思い出すんじゃよ。

湖心亭は外国人より国内の観光客でいつも賑わっとる。茶館で頼むもんを見とるとの、青茶系(烏龍茶)を頼むのはごく稀での、ほとんどが緑茶、それも龍井茶が圧倒的な人気のようじゃ。日本人の多くは中国茶というと烏龍茶やプーアール茶を思い浮かべると思うんじゃが、実はほとんどの中国人は緑茶を飲んでおるんじゃよ。

まあ、生産量が一番多いんじゃから当たり前かもしれんの。それに結構見とると茶菓子も注文するんじゃよ。高いんじゃぞ。湖心亭では一人日本円で1000円はかかるからのう。物価水準は日本の5分の1かの?考えると大変なもんじゃろ。

上海あ、そうじゃ。それで今年も(平成15年7月)楽しみにして行ったんじゃが、湖心亭は大改装中で閉まっておった。

どんな風になるんじゃろうか、ちゃんと茶館として残るんじゃろうな。懐かしさを残しておいてもらわんとの、そこが一番心配じゃよ。

まあ、そんなんで近くでお茶でもということになっての、この際と思うていくつか廻ってみたんじゃよ。

しかし、観光地でよい店を求めるのはやはり難しいの。豫園に合わせて古き良き上海を売り物にしとって、値段はいっちょまいなんじゃが雰囲気だけで、みんな安普請のつくりばかりでがっかりなんじゃよ。

でもの、一緒に行った上海人が、その中の一軒に大層興味を持ってプーアール茶を頼んだんじゃが、初めて飲むお茶と言って随分珍しがっておった。豊かで探究心あふれる日本じゃ、古今東西あらゆるお茶が手軽に飲めるんじゃが、ことお茶の本場ではそうはいかんのんじゃよ、中国は広いからのう、面白いもんじゃ。

それから、爺が地元の人にお茶の講習会を始めてしもうたら、店主まで出てきての、そこはほれすぐに意気投合したんじゃ。爺がつい図にのって主に、”あんまりここのお茶は旨くないぞ”と言うたら、それを聞くや否や奥から”秘蔵茶”なるものを出してきたんじゃよ。「鉄観音王」じゃった。

自信満々の笑顔で手渡されたんじゃが、これが店で出すお茶と全然違うんじゃよ。蘭を思わせる気品のある香りは余韻が長くての、渋みと甘味がほどようて、味わいがまろやかじゃからかなりの上物だとわかったんじゃ。

こりゃ素晴しいぞ、いいものをもっておるではないかと褒めたら、今度は主のお茶談義が始まっての、客も主人も従業員も一緒になって2時間ほど楽しい時間を過ごしたんじゃよ。茶を愛するもの同士、いったん気持ちが通じ合うと両手を広げて招きいれてくれるんじゃよ、これが中国の面白く良いところで、ひかれるところなんじゃ。

湖心亭に行けなかったのは心残りじゃったが、立ち寄るたびに豫園はいつもあったかいものを爺に残してくれるんじゃよ。

(後日談)
どうも湖心亭のその後が心配での、又9月に上海行った際に立ち寄ったんじゃが、しっかりそのまんまの姿でオープンしておったわ。

豫園の社長さんと会える機会があっての、尋ねたところ、SARSの影響で観光客が激減したから、この際危険なところを改修したんじゃと。そのおかげか、暗くなると以前にも増してライトアップされた湖心亭は、豫園の真ん中でその存在感を見事にアピールしておって、爺もほんとに安心したわ。

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